巻頭言
世論調査から洩れている人々
−62万人の元日本人−

橋本 寛
(個人会員)
 1999年 研究大会の山岡和枝氏による「米国西海岸日系人の意識調査」報告は非常に参考になった。米国に移住した日系の二世を意識調査することにより、国民性がどのように変容しているかの比較研究データを集めるのが目的とのことである。この報告を聞いて、私は明治以来日本に移住し定住している朝鮮半島・台湾出身者やその二世について、その民族意識がどのように変容しているかの意識調査の実施が現行法では不可能という我が国の現状を改めて痛感した。

 終戦により多くの朝鮮半島・台湾出身者は帰国したが、引き続き在留している人は、従来の日本国籍から離脱となり、無期限に永住できる外国人(特別永住者)という扱いになっている。その数は在留外国人136万人(平成7年)のうち62万6千人であり、46パーセントを占めている。残り54パーセントは非永住の外国人である。

 ところが、戦前から定住しているこれら朝鮮半島・台湾出身者やその二世は外国人であるがために住民基本台帳には登録されず(住民基本台帳法第39条)、外国人登録法の対象者となっている。住民基本台帳は法第11条により台帳の閲覧が認められているのにたいして、外国人登録台帳は法改正(外国人登録法第4条の3)により開示の規定が新たに作られてはいるものの、開示(閲覧)は本人の請求および法律に基づく場合を除き一切認められていない。現行法の下では在留外国人は誰であれ、世論調査の抽出台帳としての外国人登録台帳の使用は不可能だ。

 外国人登録は、旅券と写真を添えて申請するのだが、20項目のプライバシーにわたる事項の記入が求められ、一部の人には指紋の押なつ義務もある。なお、不法残留など在留資格のない人にも登録義務があり、自治体職員はこれら違法者を知り得る立場にある。これらの事情を考えれば、台帳開示の制限は理解できる。

 しかし、世論調査の対象からこれら永住外国人を疎外しているのはいかがなものか。「特別永住者」の制度は、91年の「日韓覚書」を受けて入管特例法が制定されて生まれた新しいカテゴリーである。この趣旨にそった新しい法律の適用が望ましいのであり、「特別永住者」にたいして、住民基本台帳法を準用し、かつ、調査閲覧上の便宜措置を与えることが望ましい。永久的に口を封じられた62万人の声を吸い上げる手立てを考えるべきだと思う。


これは「よろん」85号に掲載されました。

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