会長挨拶
三度会長をお引き受けして


柳井 道夫

(前成蹊大学 学長)
 この度、財団法人日本世論調査協会理事会において、三度会長に選任されました。大変名誉なことと思っております。今後2年間会長を務めさせていただきます。理事ならびに会員の皆様のご協力を得て、日本の世論調査の発展に尽くしてまいりたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 日本世論調査協会は、1950年に財団法人として設立されて以来、50年以上になりますが、新聞社・放送局・通信社など世論調査を実施する報道機関、大学や研究所ならびにその他各種の世論調査を実施する機関、および世論調査に関心を持ち、自らも世論調査を企画立案し実施する研究者が集い、互いに連絡提携を図り、世論調査の科学的・理論的研究・研鑽を重ね、世論調査の進歩向上を目指してきました。さらに国際的連携を図り、国際的調査研究にも参画してきました。
 世論調査に対する規制などの動きに対しては、世論調査の意義と重要性とを訴えて、理解と協力を得る活動もしてきました。 年1回研究大会が開催され、研究成果の発表、調査報告が行なわれるほか、随時開催される研究会や、年2回発行される協会報『よろん』を通じて、世論調査に関する研究成果の発表、調査の報告・記録、世論調査関係書籍の書評、世界の動向などの情報の提供を行なっています。

 このほか、調査ならびに調査方法についての研究、調査データの保存・再利用に関する研究も行なっています。
 インターネットのホームページでも、常に新しい情報提供のサービスに努めています

 協会は、会員に広く開かれた活動を目指していますので、会員の皆様の積極的なご協力をお願いいたします。

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 ところで、現在世論調査は大変厳しい環境のもとにおかれています。前回2005(平成17)年に行われた国勢調査では、調査票を回収できなかった世帯が4.4%、世帯数にして約210万世帯にも達しました。東京都にいたっては13.3%もの世帯が回収不能でした。
 国の最も基本的な指定統計である国勢調査がこれほど難しいものとなっているのです。国の各種の世論調査でも、今や回収率が50%台に落ち込んでいます。
 都市部では、調査対象者の移動性の高さから、接触が難しくなっている他、「個人情報保護法」の施行とあいまって、全国的にプライバシイ意識が高まり、調査への協力が得にくくなっています。それに加えて、2006(平成18)年「改正住民基本台帳法」が成立し、「公職選挙法」の一部(選挙人名簿抄本閲覧制度)改正も成立し、代表性のある確率論的に正確な調査対象者の抽出が難しくなってきています。

 こうした状況の中で、統計学的に正確な調査を行おうとすれば、必然的に今まで以上に費用がかさむことになります。ところが世間一般には世論調査についての理解がかならずしも十分でなく、クライアントから無理なコストダウンを強いられ、調査実施者の側も仕事の受注のために少々無理な実施計画を立ててコスト削減を図る、といった事態が起きてきています。

 世論調査はまさに難しい時期を迎えています。こうした状況を見るとき、日本世論調査協会の役割は著しく重要度を増してきていると思われます。困難さを増してきている既存の調査方法の達成に、新しい調査方法の研究に、そして世間一般の世論調査に対する理解の浸透に、それと同時に調査実施者の側の倫理観を高めるキャンペーンに、と努めて行かなければならないことがたくさんあります。

 以上のとおり、本協会に就いてのご紹介、調査環境の厳しさ、協会としてやっていかなければならない多くのこと等、これまでと変わりはありません。
 しかし振り返ってみますと、2005(平成12)年の衆議院議員選挙、2007(平成19)年の参議院議員選挙、そして今回の衆議院議員選挙と、マスメディア各社の世論調査に基づく開票結果予測は、全体としてほぼ正確に結果の方向性を示しておりました。またここ数年、各メディアが報ずる内閣支持率が、政局を大きく動かしてきました。
 これらは、世論調査環境のきわめて厳しい中でも、メディア各社がさまざまな工夫をし、調査の正確さの確保に努めてきた努力の結果であり、政界に身をおく人びとが、そして一般の人びとが、世論調査の結果をかなり信頼して重視している証拠であると思います。

 どうか皆さん、幾多の困難の中、われわれの従事している世論調査の重要性を改めて認識し、日本の世論調査の発展のために、そしてより正確な日本の世論の把握のために、お力をお貸し下さい。ここに重ねてお願い申し上げます。

〔平成20年6月〕


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